サロメとカキフライ定食と時々電マ



f:id:lwndop:20201212071953j:plain




原田マハさんの『サロメ』は電車に乗るときに読んでいる。電車に乗る時しか本を読めていない。サロメを買ったのは初めてお兄さんに会った次の日。古井由吉さんの本と迷ってサロメを買った。一色文庫さんのTwitterにあがってる写真を見て、あのカラシ色の表紙が気になっていた。


そのおかげで、移動中は余計なことを考えずにビアズリーやワイルド、ウィリアムモリスについて夢中で考えていられた。



病弱なビアズリーが、会社勤めのころ狭苦しく空気の悪い電車で通勤しているのを想像した。



ビアズリーは何を観ていたのだろう。

彼は何を思い、その目で何を捉えていたのだろう。





ワイルドはとても魅力的に描かれている。
人を惹きつけ翻弄する芸術的な悪魔のように。



そんな時、彼の作品が頭を過ぎる。



純粋な命が身を削り息絶えたとしても、それは必ず報われることはない、と。努力虚しく人の目に映ることもなく死体が踏みつけられる。





残酷で胸が締め付けられる。
いわゆる、正統派の物語からは逸れる。
ハッピーエンドではない。



それでも、人々を魅了するのは、少なからず読者が内容に対して拒否反応を示していないからだろう。



なぜなら現実は残酷だから。なにもかも、ハッピーエンドで終わる物語は夢物語だ。





残酷で、純粋であるがために愚か。



清い無垢な水が、野蛮で何も考えていない人々によって汚染されていく。





死によって、現実は変わることはないが

たしかにそこで命を削ったものがいた。
たしかにそこで誰かを思って死んだものがいた。





そんな、誰の目にも映らない事実を
読者は知る。












私も現実世界に戻ろう。






池袋。







あの黄色い本を読みながらお兄さんを待った。



お兄さんは寒空の下、テロテロのお洒落な柄シャツに黒の皮ジャケットを着ていた。

そのシャツがすごく似合っていた。





お兄さんと初めて会った時の印象は
ちょっとイカつい、近寄り難い人、だった。


でも、何回も電話で話していたのでお兄さんが温厚で優しくてたまに口が悪い可愛い人だとわかっていた。



このお兄さんがいたら、変な人に声をかけられる心配はないだろうな、と思った。












時刻はお昼を過ぎた。


「マスク買っていい?」


お兄さんはマスクをしてなかった。




「しなくてもいいんじゃない?」

 

「非国民になってまう」






「じゃあ、私も非国民になろうか?」

とマスクを取ろうとすると、止められた。















2人でしばらくブラブラした後、お店に入って、カキフライ定食を頼んだ。
お兄さんは大盛り。




運ばれてきたお膳には見た目からわかるザクザクの衣を纏ったカキフライ。
大きめの器に普段食べる3倍くらいの米の量。



私の視線に気づいたお姉さんが「普通でも多いよね、彼に食べてもらってね」と笑って行った。



「彼」という部分に引っかかってしまう私は変にウブなのかもしれない。


心の中で3度「彼」を繰り返した。


居心地が悪かった。







人を前にして飯を食うというのは、とても羞恥的行為だ。


人は物を食べている時、とても無防備で無意識だ。口を開けて、異物を取り込み、咀嚼し、また口を開ける。


私はこれらの行為が恥ずかしくて、男性の前で飯を食うことがあまり好きではない。




でも、人が物を食べる姿を見るのはとても好きだ。人間が異物を体内に取り込む瞬間は非日常的で、すごく興味を引く。






私はがんばって食べた。
米も1人で完食した。


ザクザク熱々のカキフライはとても美味しかった。









私が一生懸命米完走を目指していると



お兄さんが





「これくらいの電マ買った」


と言い出した。




なんの脈略もなく。








私はニヤニヤが抑えられなくて
しばらくニヤニヤしていた。



こんなに表情筋は私の意思を無視して動くことがあるのか、と自分の表情筋の無情さに、裏切られた気持ちになった。





もう表情筋を信じられない。












表情筋との溝は深い。








その後お兄さんの家へ向かった。


男の家なんて1年半は行ってない、ということに家に上がってから気づいた。





そして、1泊のつもりが4泊することになる。




とりあえず、ひと区切り。












-