冬本夏草
本に根をはる菌
格段汚れていなくても本を手で触れば垢がつく。脂やなんか。
本を触る。
垢がつく。
垢から菌が繁殖する。
根をはる。
本を開いた瞬間から、その人が本と向き合った時の全てが本に記憶される。
本は全てを記憶している。
触れた場所、時間の空気、温度、湿度…
溢された紅茶、爪の痕、インクの染み、日を受けた日焼け…
本には本の本生があって
人に触れられた瞬間に、きっと本は目覚める
人の手に運ばれて持ち主と出会い
持ち主との記憶を作り
また次の持ち主の元へ渡る。
人の人生と同じで本も様々な道を歩む
人間が一生のうち読める本はたかが知れていて、世界中の本のほんのほんのちょびっとしか読むことができない。
そんな中で目があって手に取った本はやはり特別な存在だ
本との出会いはすべて運命だ
出会うべくして出会ったんだと思う本もある
まだ出会っていないが
わたしに触れられるのを待っている
本たちがきっといる
迎えに行くから、まっててね
そう心の中で呟く
古本はおもしろい。
色んな古本がいる。
本生経験深い古本もいれば
比較的若い古本もいる
大事に大切にされた本はよくわかる
何度も読み返され触られ汚れのある本も 愛された形跡
そんな古本達が愛らしくて仕方ない。
本のあちらこちらに散らばった本生を感じ取る。色んな人の手に渡って、もしくは誰か1人の手によって大事にされてきた本が今、このタイミングで私と出会う。
本との仲をじっくりと深め
彼らの一部になっていきたい
彼らの良き友として生きられたら
こんなに嬉しいことはない
私のもとに来てくれた本達を
愛でずにはいられない。
いつかは私のもとを離れていくが
彼らは私を記憶し
次の友へと受け継がれる
私がこの世を去った後も
私の友は生き続ける。