可愛い毛には旅をさせろ
突如現れるもの
突如現れるものはいろんなものがいる
小さい虫。なんかよくわからん枯れた草。
使った後のティッシュ。
日常的に1番多い確率で突如をしてくるのは髪の毛だろう。
大概自分の髪の毛だ。
私は1番最近付き合っていた彼が短いヘアースタイル好きだったため、2年間ほど髪を短くしていた。
1年前に別れてからは髪を伸ばしている。
私の中での小さな“反抗”なのかもしれない。
「彼が好きというから」「彼が似合うというから」という名目で彼に合わせていた自分への苛立ちも含んでいるだろう。
その時はたしかに嬉しさも感じていたけれど。
そんなことはどうでもよくて、今は髪を伸ばしていて丁度乳首の下くらいの長さだ(お前の乳首の位置しらねぇよ)。
家族の中でもこんなに髪が長いのは私くらいで、家の中で発見される長髪はぜんぶ私のものになる。
よく髪の毛が抜ける。
髪の毛が抜けることなんて今まで生きてきた24年間季節問わず経験してきたことで、普通の中の普通のできごとである。
なのに、髪が抜けるとその髪を見つめて心の中で「うーん」とも「んー」とも言えない呻きが漏れる。
どうしてこんなにも“抜け毛”に心囚われるのだろう。
病院の待合室で服についた抜け毛を見つけ、摘まみ上げる。
なんとなく、あからさまに床に落とすのに抵抗感を持った。
出来るだけ腕を小さく動かし髪の毛を捨てた。誰も見ていないのに。
その髪は私が待合室を去った後もそこに残る。
私の一部が、一部であったものが、ある場所に残る、置き去りにされるというのは不思議な感覚に陥る。
こんなこと気にしているのは私くらいかもしれないが。
その親元から離れた髪の毛1人はどうなるのだろう。旅を始めるのだろうか。
もしかしたら私なんかより多くの景色を見るかもしれない。待合室でその後起こったみんなが驚くような出来事に遭遇しているかもしれない。
そう思うと抜け毛1本に対してわずかに嫉妬心が湧いてくるようだった
たんぽぽの綿毛のように、私の頭皮から旅立った子どもの毛たち。
お前たちは今どこで何をしているんだい。
1つの曲を聴いて誰かを探そうとしてた
君の濁らす息とともに
君の紡ぐ音とともに
君の言葉にぼくはなりたい。
夜は人口が減るから息がしやすい。
すべてがはじまりに戻る
虫の声も風の囁きも静かに流れる
遠くの道路を走る車の音がする
君のことを思い浮かべると
この世にはぼくと君しかいないみたいで
夜を迎えるたび
儚くて焦れったくて心地よくて
君の声にぼくの奥
鼓膜の奥が甘く疼くようで